移動通信システムは約10年ごとに進化を続け、2020年からは第5世代として5Gの提供が始まりました。
その後政府は5Gの人口カバー率について2030年度末には99%を目指すと発表し、通信事業者(携帯キャリア会社)は5Gのサービスエリアの拡大をすすめています。
一方、通信事業者ではない企業や自治体が自らのエリアに専用の5Gネットワークを構築できるローカル5Gにも注目が集まっています。
本記事では、ローカル5Gの特長や展望について紹介します。
そもそも5Gとは?
5Gは「Society 5.0」の実現に必要とされている次世代通信技術「第5世代移動通信システム」のことで、以下の特長があります。
特長1:超高速
最高伝送速度は10Gbpsです。これまでは時間がかかっていた重いデータのダウンロードをする際などに、大幅に時間を短縮できます。
特長2:超低遅延
4Gと比べて遅延を約10分の1に抑えられます。1ミリ秒程度の遅延で済むため、タイムラグを感じずにロボットの遠隔操作や制御などが可能です。リアルタイム通信が求められる場面での利用に適しています。
特長3:多数同時接続
100万台/km2の接続機器数に対応できるとされています。例えば自宅で、PC・スマホや家電などの約100個の端末・センサーを同時接続させることも可能です。
ローカル5Gとは?パブリック5G、プライベート5Gとの比較
5Gネットワークは、ローカル5G、プライベート5G、パブリック5Gに分けることができます。
主な特長や違いは下記の通りです。
ローカル5G | プライベート5G | パブリック5G | |
ネットワーク設備 | 利用者が構築 | 通信事業者が利用者の敷地内に基地局の設備を設置し、保守運用する | 通信事業者が構築 |
通信エリア | 利用者のエリア内 | 利用者のエリア内 | 全国(エリア拡大中) |
免許 | 必要 | 不要 | 不要 |
導入コスト | とても高い | 高い | 低い |
通信安定性 | 高い | 低い | 低い |
ローカル5Gは通信事業者以外の企業や自治体が独自に構築するネットワークです。一方、プライベート5Gはローカル5Gと同じく独自エリアでの利用を想定しますが、ネットワーク構築や運用を通信事業者に依頼する点などで違いがあります。
ローカル5Gは導入コストが高いため、他の通信方法ではランニングコストが導入コストを上回ると判断されるケースで有用です。例えば、山奥の土木作業現場など、限られたエリアでプライベート5Gの携帯回線を複数かつ大容量で契約しようとするとランニングコストが導入コストを上回ることがあります。そういったケースで、ローカル5Gを検討するがよいでしょう。
ローカル5Gのメリット
ローカル5Gでは独自のネットワークを構築するため、下記のメリットがあります。
個別エリア対応
パブリック5Gの場合、都市部を中心に段階的に整備が進んでいるため、まだ使用できるエリアは限られています。その点ローカル5Gであれば、パブリック5Gがないエリアでも5G通信を利用することができます。
トラブルの影響を受けにくい
ローカル5Gは独自のネットワークを利用するため、外部環境に影響を受けずに利用できます。不特定多数が利用するパブリック5Gでは、アクセスが集中して通信速度が遅くなったり、接続できなくなるケースがありますが、ローカル5Gではその心配はいりません。
また、通信事業者が提供するネットワークではないため、通信事業者に通信障害が発生した場合も影響を受けずに済みます。
セキュリティ面
ローカル5Gは特定の敷地内で利用する独自ネットワークであるため、外部から遮断された環境でデータ通信が可能です。情報漏えいのリスクを減らすことができ、セキュリティが高いネットワークといえます。
ローカル5Gの留意点
上記でメリットを紹介したローカル5Gですが、留意点もあります。
コスト面
機器や通信システム構成の違いによっても変わりますが、従来は5Gネットワークの構築は数千万~数億円が必要でした。また、ネットワークの構築費に加えて電波利用料もかかります。
ただし、こういったコスト面の課題に対し、ローカル5G導入を促進するための制度もできはじめています。設備に対する税額控除・特別償却などの措置が設けられたり、初期負担軽減のためのサブスクリプション型のサービスも始まっているため、今後は導入のハードルが下がっていく可能性があります。
免許が必要
ローカル5Gを開設・運用するには無線局の開設免許申請と無線従事者の無線資格(免許)が必要となり、運用を開始できるまでに数か月を要します。
まず申請段階で、ローカル5G利用に関する情報を整理して総合通信局へ頭出しをしたり、干渉に関する調整や必要な書類の手配をしたりと、さまざまな準備が必要です。
そして、運用開始までには利用者識別番号の取得も必要で、これには総務省への申請から数週間ほどかかります。
このように、ローカル5Gを導入する際には免許取得の時間や手間がかかる点に留意しておきましょう。
ローカル5Gの活用例
ローカル5Gはさまざまな分野での活用が期待されています。下記で活用例を紹介します。
医療現場
ローカル5Gは医療現場の課題解決にも大きく寄与すると期待されています。
そもそも病院は非常に特殊な環境で、ドアを閉めると電波が入らないエリアがあったり、医療機器への干渉防止策が必要であるなど、ネットワークに関する課題が多くありました。ローカル5Gを導入することで、特殊な環境でも機能するネットワークが構築できます。
また、業務改善やサービス向上に繋がっているケースも多くあります。
例えば、患者の緊急搬送が必要な際に複数の医療機関がリアルタイムで情報共有することで、どの機関で受け入れるのがよいかを迅速かつ正確に判断できます。また、遠隔診療や、人の代わりに患者の移動を助ける自律走行ロボットの導入などの実証も進んでいます。
ローカル5Gは、医療サービスの向上と、医療従事者の人手不足問題の解決のきっかけとしても注目されているのです。
参考:トランスコスモス株式会社「トランスコスモス、医療現場の社会課題解決への取り組みとして総務省「令和4年度 課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」事業に採択」
エンターテインメント
ライブ会場やスポーツイベントなど多くの人が集まる場所では、パブリック5Gの通信が混雑する可能性があります。ローカル5Gを用意しておくことで、運営用の通信を確保することができます。
また、単なる通信網確保というリスクヘッジ用途ではなく、ローカル5G環境下限定のコンテンツ配信をおこなうなど、エリア限定のエンターテインメント施策などにも活用できます。
まとめ
上記でも述べた通り、ローカル5Gは今後も幅広い業界で活用が期待されています。
ネットワーク構築に時間や費用がかかってしまう点は課題ですが、導入時のメリットは非常に大きく、今後課題に対する解決策が整っていく可能性もあります。
5G自体の特性や、ローカル5G、プライベート5G、パブリック5Gの違いを理解しながら、自身に合ったネットワーク構築を検討してみてください。