総務省が過去に発表した「平成16年版 情報通信白書」では、情報通信社会の新たな概念として「ユビキタスネットワーク社会」が取り上げらています。そしてそのユビキタスネットワーク社会は、2023年3月現在、着実に現実化してきています。
この記事では、ユビキタスネットワーク社会を実現する「ユビキタスネットワーク」について紹介します。
ユビキタスネットワークとは?
「ユビキタス」という言葉はラテン語で「いたるところに存在すること」を意味します。
ユビキタスネットワークは「いつ、どんな場所でも繋がるネットワーク」のことで、人々の生活を豊かにする目的で整備が進められています。ユビキタスネットワーク環境では、パソコンなどの電子機器を使用している最中に限らず、日常生活のあらゆる場面でネットワークに接続できるため、人々の生活が格段に便利になります。
また、人間がネットワークにアクセスする場面だけではなく、人とモノ、モノとモノなどを自在に接続できる点も特長です。
このように、いつでもネットワークに繋がり、サービスが提供されていく社会をユビキタスネットワーク社会と呼びます。
ユビキタスネットワークの歴史
2000年代前半から構想されてきたユビキタスネットワークですが、その後どのように進化してきたのか、例を挙げながら見ていきましょう。
地上デジタルテレビジョン放送の開始
2003年(平成15年)12月からは三大都市圏において地上デジタルテレビジョン放送が開始され、2011年(平成23年)7月に東北3県(岩手・宮城・福島)を除く44都道府県において、アナログ放送から移行しました。東日本大震災で大きな被害を受けた東北3県は、遅れて2012年3月に移行を完了しています。
地上デジタルテレビジョン放送では、リモコンのdボタンを押すだけで、手軽にニュースや天気予報などの情報にアクセスできるデータ放送が利用できます。番組によっては、放送内容と連動しているデータ放送が行なわれている場合もあり、例えばドラマなら、鑑賞しながらあらすじや登場人物を確認することができます。スポーツ番組であれば選手プロフィールや試合経過、歌番組であればアーティストや歌唱順の紹介なども見られて便利です。
また、視聴者参加型の番組では、双方向のコミュニケーションも可能です。視聴者がリモコンを操作して投票や回答をして、その結果を踏まえて進行していく生放送番組も実現しました。
参考:総務省「地上デジタル放送 関連情報」
参考:総務省「地上デジタル放送ってなに?」
住民基本台帳ネットワークシステムの本格稼働
1999年(平成11年)に住民基本台帳法が改正され、行政機関等に対する本人確認情報提供に関して、市町村の区域を越えて確認できるように住民基本台帳のネットワーク化が進められました。
2003年8月、全国共通で利用できる本人確認システムとして住民基本台帳ネットワークが本格的に稼働し、各種行政手続を電子申請する住民基本台帳カードの交付も始まりました。
なお、2016年(平成28年)1月からマイナンバーカードの発行が開始されたことに伴い、住基カードの発行は2015年(平成27年)12月で終了しています。
参考:総務省「住基ネット」って何?
参考:総務省「住民基本台帳ネットワークシステムの経緯・スケジュール」
参考:総務省「住基カードをお持ちの方へ」
Googleマップの提供開始
2005年2月、人々の移動を便利にするソリューションとして、Google社がデスクトップ向けの「Googleマップ」を開始しました。日本では2005年7月にスタートし、以降は、世界中の衛星写真を閲覧できる「Google Earth」や各地の映像が見られる「ストリートビュー」も公開しています。
記事執筆時の2023年3月現在に至るまで、さまざまなサービス改良や機能追加を繰り返し、交通手段別の経路を提案するなど、ユーザーの移動を便利で楽しいものにしています。
参考:Google Japan Blog「Google マップの 15 年を振り返ってみましょう」
IoTの広がり
2015年に総務省が発表した「平成27年版 情報通信白書」では、「ユビキタスからIoTへ」と、経済構造の変化に触れられています。
IoTは(Internet of Things)は「モノのインターネット」と表現され、自動車や家電などのモノがインターネットに繋がることで生産性や利便性を向上するなど、新しい価値を提供します。
ユビキタスネットワークの活用事例
テレワーク
ICT(情報通信技術)を活用するテレワークを、2020年の新型コロナウイルス感染拡大防止をきっかけに採用する企業が増えました。
時間や場所を柔軟に使える働き方であるため、労働者にとっては通勤時間を削減したり、育児、介護、通院がしやすくなるなどのメリットがあります。
また社会から見ても、労働者の確保、生産性の向上、地方創生など、さまざまな課題を解決するのではないかと期待されています。国もテレワークを推進するために、継続してサポートをおこなっています。
医療・健康・介護
医療・介護・健康の分野においても、ネットワーク化に向けた動きが始まっています。
パーソナル・ヘルス・レコード(PHR)利活用として、これまでは受診した医療機関が保存していたユーザー(患者)の医療・健康情報をユーザー本人や全国の医療機関などが確認できる仕組みを構築し、健康状態に応じた最適なサービスを受けられるモデルが構想されています。
2022年(令和4年)10月には、電子版お薬手帳アプリに一般用医薬品などの情報を取り込んでユーザーや医療機関のメリットなどを実証するためのモデル事業がおこなわれるなど、政府と民間の連携も進んでいます。
参考:総務省「医療・介護・健康分野の情報化推進」
参考:厚生労働省 報道発表資料「電子版お薬手帳のモデル事業を開始しました」
教育
教育分野においてもネットワーク化でできることが増えています。
例えば、遠隔授業です。教室にいながら博物館や美術館の作品を鑑賞をし、学芸員から説明を受ける課外学習が取り入れられています。
また、海外や離れた地方の学校などとネットワークで繋いで一緒に授業をおこなうことで、生活環境が異なる人々とも意見交換がしやすくなり、多様なコミュニケーションの機会を得ることができます。
そして今後は、生徒自身が集めた情報を学習に取り入れることも期待されています。例えば、センサーを使って植物観察をすることで、以前は人が都度目視確認をして紙媒体に記録していた作業をなくし、温度や湿度などを自動で記録することができます。そして植物の生育状況と各種センサーから得られたデータを基に、さまざまな観点で植物の成長に適した条件を導いていくような学習も可能になります。
ユビキタスネットワーク社会のメリットと留意点
あらゆる場所やあらゆるモノでネットワークを利用できるようになることで、ユビキタスネットワーク社会には多くのメリットがあります。
地域による情報格差を減らせたり、これまで人間がおこなっていた面倒な作業をシステムに代替させることもできます。
一方で、生活のほとんどをネットワークに繋がった状態で過ごすことは、個人情報漏洩や悪用されるリスクが高まることにもなりえます。
また、「デジタル疲れ」のように、生活を豊かにするはずの仕組みによって逆にストレスや疲労が溜まってしまうこともあります。
まとめ
今後ますます通信技術が進化し、世の中がネットワーク化していくことが予想されます。
ユビキタスネットワーク社会のメリット・デメリットの両方を理解しながら、自身にとって最適なサービスや使い方を取捨選択していく力も必要になるでしょう。
そのことも意識しながら、ユビキタスネットワークをうまく活用していってください。