Wi-Fi HaLow™とは?特長や920MHz帯を利用した事例を紹介

2018年11月、IoTの通信システムとして活用が期待される IEEE標準規格 802.11ah(Wi-Fi HaLow™)の日本国内での利用実現に向け、関係する企業・団体 56 社が参加して「802.11ah 推進協議会」が発足しました。

Wi-Fi HaLow™(ワイファイ ヘイロー)は、920MHz帯の周波数を利用する通信手段のひとつで、特にIoTの通信システムとしての幅広い活用が期待される新しいWi-Fi規格です。

「Wi-Fiの伝送距離が拡大」「端末・アクセスポイント・クラウドまでエンドツーエンドでユーザが自由にネットワーク構築可能」「フルオープン・IP ベースの Wi-Fi ファミリー」「数Mbpsのスループットの可能性を有する」という特長を有し、LPWAより大きなデータ量を扱える点やIPベースで構築が容易な点で、新たな通信規格として期待されています。

海外ではすでにWi-Fi HaLow™の利用や製品化が進んでいますが、日本国内においては2022年9月に利用が許可されており、後を追う形で普及していくと予想されます。

Wi-Fi HaLow™とは?

2022年(令和4年)9月5日、総務省より「無線設備規則の一部を改正する省令(令和4年総務省令第60号)」が公布・告示され、日本国内でも920MHz帯のIEEE 802.11ahが利用できるようになりました。

Wi-Fi HaLow™で利用される920MHz帯は免許不要の特定小電力無線局として割り当てられており、すでにいくつかのLPWAの通信規格に使われています。

Wi-Fi HaLow™は従来のWi-FiとLPWAの中間的な特長を持っており、「フルオープン・デファクトスタンダード規格のIP通信に対応したWi-FiベースのLPWA」として、さまざまな分野での活用が期待されています。

LPWAについては、「LPWAとは?特長や他通信規格との比較、活用事例を紹介」の記事で紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください。

Wi-Fi HaLow™の特長

Wi-Fi HaLow™はWi-Fiの特長を有しながらも長距離伝送を可能にするなど、Wi-FiとLPWAの両方の強みを持った新しい無線通信規格です。

以下で特長を見ていきましょう。

特長1:伝送距離の拡大

920MHz帯の周波数を利用するWi-Fi HaLow™は、2.4GHz/5GHz帯を用いる従来のWi-Fiと比べて伝送エリアが広く、1GHz以下の周波数による到達性が向上しています。

1kmを超える伝搬距離を実現し、壁や障壁がある場合も回り込むなど、通信可能な範囲が広い特長を持ちます。

また、Wi-Fi HaLow™(802.11ah)は従来のWi-Fiと同じくIPベースであるため、IPベースの機器との親和性が高い点も特長です。Wi-Fi HaLow™であれば、LPWAでは活用できなかった機器を、従来の2.4G/5GHz帯を用いるWi-Fiの利用時と比べて広いエリアで利用できます。

特長2:省電力

Wi-Fi HaLow™にはアクセスポイントと各端末が個別に起動や停止の制御を行なうTWT(Target Wake Time)が導入されています。

そのため、他の端末の起動に影響されることなくスリープ状態を継続でき、高い省電力を実現します。

特長3:自営設置が可能

Wi-Fi HaLow™には特別な免許や専用サーバが不要で、従来のWi-Fiと同様に家庭やオフィスへ自由に導入ができます。

また、既に普及しているWi-Fiと同じ仕組みで運用出来るため、ユーザーが理解しやすく、導入におけるハードルも低いと言えるでしょう。

特長4:数Mbpsのスループット

これまで、広域で通信環境を構築する際には主にLPWAが活用されていました。しかし、LPWAは低頻度で容量の小さいデータ通信に特化しており通信速度が遅く、大容量のデータ通信を行なう場合には適していませんでした。

Wi-Fi HaLow™であれば、数Mbpsの高速スループットが可能で、従来のLPWAでは難しかった大容量センサーデータの伝送やファームウェアのアップデート等も実現できます。Wi-Fiとしての強みを生かしながら、幅広い分野で活用されることが期待されています。

参考: 802.11ah推進協議会「802.11ahについて」
参考:802.11ah推進協議会「IEEE 802.11ah紹介資料」
参考:802.11ah推進協議会準備局「IEEE802.11ahについて」

Wi-Fi HaLow™の活用事例

従来のWi-Fi、もしくはLPWAでは困難だった部分を実現できるWi-Fi HaLow™は、さまざまな事例で活用され始めています。

下記でいくつか事例を紹介します。

ファームウェアアップデート

WPA2の脆弱性やコンピューターウイルスなどが問題視されている昨今において、システムアップデートやウイルス対策を行なうためには、通常のインターネット接続とは独立した通信手段が求められます。

Wi-Fi HaLow™を用いることで、Wi-Fiアクセスポイントを活用して追加コストを抑えながら、インターネットに接続しないプライベートなネットワークを構築することができます。

また、他のLPWA規格と比較して広帯域であるため、セキュリティ対策のパッチやファームウェアの送信を短時間で実現できます。

このように、既存の資産を活用してコストを抑制しつつ、セキュリティ対応やアップデートのルートを確保したいシーンでの利用に適しています。

工場などにおける現場作業員の見回り効率化

工場において、センサー上では正常と判断されるものの、目視確認によって異常が判明することもあります。

工場内の見回りなどにおいて、点検時に発見した異常を撮影して、画像を現場から離れた事務所に送付するケースが想定されます。その際、ローカルエリア内で携帯回線ではなくWi-Fi HaLow™を活用して画像や情報を送受信することで、オフィス内のWi-Fi アクセスポイントを活用してコストを抑えつつ、効率化を実現できます。

Wi-Fi HaLow™は既存のWi-Fi規格よりも伝送距離が長いため、広い工場の敷地内や見通しのきかない場所でも事務所との通信が可能です。

また、他のLPWAと比較して広帯域であるため、精細な画像の送受信ができる点も特長です。

農業分野等における鳥獣被害対策の効率化

動物によって農地が荒らされる等の鳥獣被害が続出している場所では、農業の被害防止に向け、鳥獣捕獲用の罠を設置して見回りが実施されています。

これまで、動物が罠にかかった後は、その獲物に応じた道具を用意して処理をする必要があり、まずは現場に行って罠にかかった動物を確認し、自宅まで道具を取りに戻るといった手間が発生していました。

Wi-Fi HaLow™を活用することで、伝送距離の広さを生かして獲物が罠にかかったかどうかを麓から検知し、高速スループットによって精細な画像からどんな動物が罠にかかったのかを識別することができます。

このように、鳥獣捕獲の確認や対応にかかる工数の削減にも寄与します。

参考:802.11ah推進協議会「IEEE802.11ahを活用したユースケースについて」

まとめ

上記のように、さまざまなメリットを持ち活用が期待されるWi-Fi HaLow™ですが、社会インフラや商業への利用に向けてはまだ各種実証試験が実施されている段階でもあります。

Wi-Fi HaLow™がIoTの分野で新たな価値を出していくためには、引き続き国と企業が力を合わせて活動を続ける必要があります。

実証実験を行ないながら効果や課題を抽出し、どんなDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現していけるのか、今後も注目していきましょう。