電子棚札

2023年2月、Bluetooth® SIGからBluetooth®の最新バージョンとしてBluetooth® v5.4がリリースされました。このリリースによって、従来のBluetooth®では叶わなかった通信方法も実現できるようになりました。

本記事ではBluetooth® v5.4の新たな機能や特長について紹介します。

Bluetooth®とは

Bluetooth®とは、PCやスマートフォン、キーボードなどの機器を無線で繋ぐ通信規格です。最初にペアリング設定をするだけで、自動的に機器同士を接続することができます。

他にも「国際標準規格のため幅広い機器で使用できる」「一対多の接続ができる(マルチポイント機能)」といった特長があり、便利で身近な近距離無線通信規格です。

Bluetooth®については、「Bluetooth®とBLEとは?概要や違い、特長を解説」の記事でも紹介しています。ぜひ、合わせてご覧ください。

Bluetooth® v5.4の特長

Bluetooth® v5.4の大きな特長は、PAwR (Periodic Advertising with Responses) という新しい通信方式が追加されたことと、通信データの暗号化が標準化したことの2点です。

PAwR (Periodic Advertising with Responses)

これまでのBluetooth® LE(Bluetooth® Low Energy:低消費電力の通信規格)はデータを一方通行で送信するアドバタイズ(ブロードキャスト通信)方式で、接続せずにアプリケーションデータの双方向通信を行なうことは不可能でした。

Bluetooth® v5.4のPAwRは、従来の仕組みを拡張してアドバタイジングを受信する側が応答できる方式であり、双方向通信が可能です。

双方向通信の詳細

ブロードキャスター(送信側)からデータが送信されると、オブザーバー(受信側)はそれをスキャンして受信します。オブザーバーは応答スロットに同期して応答を送信します。データはPAwRイベント(サブイベント)内で送信されます。

各オブザーバーは1つまたは複数のサブイベントと同期でき、同期したあとはその特定のタイムスロットでのみ受信します。

双方向通信時、ブロードキャスターはサブイベントの開始時にデータを送信し、オブザーバーは「応答スロット遅延」の後で、応答を送信できます。

サブイベントでは、エンドノードがごくわずかな特定の期間に絞ってスキャンしているため、消費電力を抑えることができます。

また、PAwRはサブイベントで接続リクエストを含むことができ、ACL(Asynchronous Connection-Less:非同期コネクションレス)での接続も可能です。このACL接続機能を使用することで、追加のスキャンやアドバタイジングを伴う従来の接続スキームに倣う必要はなくなります。

アドバタイズデータ暗号化の標準化

PAwRで実現する拡張性や低消費電力といった特性以外に、ITシステムではセキュリティ面も重視されます。例えば、ESL(Electronic Shelf Labels:電子棚札)のアクセスポイントとデバイス間でデータをやり取りする際は、機密性保持、改ざん防止、ネットワーク保護のための暗号化が求められます。

Bluetooth® v5.4以前では、通信データを暗号化するための方法は、コネクション型通信以外では標準化されていませんでした。

しかし、ESLアプリケーションにおけるデータ通信の大半はPAwRを通過するため、暗号化通信機能を追加する必要が生じました。そしてBluetooth® v5.4からは、通信データを暗号化と、その暗号化に必要な鍵を共有するための方法が標準化されました。ちなみに今回標準化された通信データの暗号化は、PAwRだけでなく他の通信手段でも活用できます。

この通信暗号化機能では、通信パケットのペイロード全体もしくはサブセットだけの暗号化が可能です。その際は、暗号化されるすべてのアドバタイズメントデータフィールドをカプセル化し、新しいアドバタイズメントデータタイプを追加することで実現させます。

出典:Bluetooth® SIG ノルディックセミコンダクター SIG メンバー「Bluetooth v5.4 の新機能。概要」
出典:Nordic Semiconductor「What’s new in Bluetooth v5.4: An overview」

Bluetooth® v5.4の活用事例

従来のESLシステムでは、システム各社が自社に囲い込む目的で無線通信に独自プロトコルを使用していました。そのことが小売業者側にとってESLシステム導入の障壁となっており、大きな普及には至りませんでした。

この課題に対してESL業界の各社とBluetooth® SIGが協力し、Bluetooth®の技術を基にしたESL無線規格であるBluetooth® v5.4をリリースしました。グローバル標準のESL無線規格が登場したことで、小売業者は複数のベンダーからESL部品を調達しやすくなったのです。

今後、Bluetooth® v5.4は電子棚札(ESL)で大いに活用されると期待できます。

電子棚札(ESL)

電子棚札 (ESL) は商品価格などの情報を表示するティスプレイ端末です。小型で、小売店などの棚に設置して使用されます。

棚に貼られる紙やシールラベルとは違い、無線通信を活用して、名前、価格、バーコードなどの商品情報を遠隔で管理し、必要に応じて表示を変更することができます。

特長1:価格表示の自動化

予め価格設定のルールを決めておくことで、適したタイミングで適した価格を自動で表示させることが可能です。また、電子棚札を活用することで、これまで価格変更の際にかかっていた作業工数を大幅に削減できます。

特長2:在庫管理の効率化

システム化することで在庫管理がしやすくなり、在庫切れによる顧客満足度の低下や売上機会損失の防止に繋がります。効率よく適正に補充を行わなければならない場面で大きな効果を発揮するでしょう。

特長3:ピッキングのサポート

クリック&コレクトの場面などで、複数の棚に分散している注文商品を店員がピックアップする際、LEDを点滅させて目印にすることで、作業効率を上げることができます。

特長4:商品棚を使ったマーケティング

クーポンを配布した際の利用状況を売上データと合わせて確認すれば、キャンペーン効果の分析がしやすくなります。今後、顧客に合わせたリアルタイム販促ツールとして使用されることも増えるかもしれません。

まとめ

Bluetooth® v5.4がリリースされたことで、これまで人の手で行なわれていた小売業の商品管理などで、より一層システム化が進むと予想されます。

他にも、電子棚札を活用した新たなマーケティング手法や顧客体験価値提供が生まれる可能性もあります。

また、今回の最新バージョンのリリースは、これまで独自で動いていたESL企業がBluetooth® SIGと協力し、ESL普及のために実現させた無線通信規格である点も大きなポイントです。

今後のBluetooth® v5.4の展開に注目していきましょう。