スイッチング電源(SMPS)とは?仕組み、種類、特徴を簡単に解説

スイッチング電源とは、スイッチング素子を用いて電力の変換・調整を行っている電源装置の一つです。電力の変換・調整を行うことで、出力を安定化させています。Switched-Mode Power Supplyを略してSMPSとも呼びます。

スイッチング電源(SMPS)の用途は安定した電源供給

スイッチング電源の用途は、安定した電源供給です。スイッチング電源は、安定化電源の一種です。

安定化電源とは

名前の通り、一定の電圧や電流を供給するための電源装置。ボリュームを回転させることで、可変式で値を調整できる。ただし、出力が大きくなるほど装置が大きくなるというデメリットがある。

スイッチング電源は、通常の安定化電源とは異なり、複数の電圧を予め用意し、必要な電圧と電流を選んで使用します。このため、電圧を変化させることはできません。しかし、可変式の安定化電源と比較すると、小型・軽量・高効率・安価といったメリットがあります

ポイント
  • スイッチング電源の用途は、安定した電源供給
  • 通常の安定化電源よりも小型・軽量・高効率・安価といったメリットがある

スイッチング電源(SMPS)の種類

スイッチング電源は、下記の2種類に大別できます。スイッチング電源の種類は、接続する電子装置が直流か、交流かによって決まります。

  • 直流安定化電源
  • 交流安定化電源

スイッチング電源(SMPS)の直流安定化電源

直流安定化電源とは、直流を必要とする装置へ電気を供給する電源です。電子装置のほとんどは一定の直流電圧が供給されるという前提で作られています。このため、ほとんどのスイッチング電源は、直流安定化電源です。

直流安定化電源は、入力電圧によって下記の2つに分類できます。

  • DC-DCコンバーター(直流入力)
  • AC-DCコンバーター(交流入力)

スイッチング電源(SMPS)のDC-DCコンバーター

DC-DCコンバーターとは、直流(DC:Direct Current)を入力して、直流を出力する電源です。装置の中に取り付けられることが多いため、一般消費者が直接目にする機会が少ない電源です。

スイッチング電源(SMPS)のAC-DCコンバーター

AC-DCコンバーターとは、交流(AC:Alternating Current)を入力して、直流を出力する電源です。AC-DCコンバーターの一つに、ACアダプタがあります。ACアダプタは、交流入力であるコンセントに取付け、直流で動くPCへ電気を変換しています。

スイッチング電源(SMPS)の交流安定化電源

交流安定化電源とは、交流を必要とする装置へ電気を供給する電源です。

交流安定化電源は、入力電圧によって下記の2つに分類できます。

  • DC-ACインバーター(直流入力)
  • AC-ACインバーター(交流入力)

スイッチング電源(SMPS)のDC-ACインバーター

DC-ACインバーターとは、直流を入力して、交流を出力する電源です。電池やバッテリーなどの直流電圧から入力されます。

スイッチング電源(SMPS)のAC-ACインバーター

AC-ACインバーターとは、交流を入力して、交流を出力する電源です。安定した電圧や周波数が必要な装置への電力供給に使用します。

補足:交流の電子装置

すでに述べた通り、多くの電子装置は直流の電気が流れています。しかし、中にはUPS(無停電電源装置)など、交流の電子装置もあります。

UPS(無停電電源装置)とは

無停電電源装置とは、交流の電子装置の一つ。無停電電源装置は、バッテリを内蔵し、停電など入力電源に異常が起きた際に電力を供給する。無停電電源装置を意味するUninterruptible Power Supplyを略してUPSとも呼ばれる。

スイッチング電源(SMPS)の種類
  • 直流安定化電源(例:DC-DCコンバーター、AC-DCコンバーター)
  • 交流安定化電源(例:DC-ACインバーター、AC-ACインバーター)

スイッチング電源(SMPS)の原理・回路図

下記は、AC-DCコンバーターの基本的な回路図です。この回路図をもとに、スイッチング電源(SMPS)の原理を見ていきましょう。

出典:今さら聞けないスイッチング電源の基本Vol.2 回路構成編

基本構成は、下記の通りです。

  1. 入力
  2. ノイズフィルタ
  3. 一次側整流平滑部
  4. スイッチング素子
  5. スイッチングトランス
  6. 二次側整流平滑部
  7. フィードバック部

入力

入力部分は、スイッチング電源に電気を供給します。これはAC-DCコンバータのため、交流(AC)を供給します。

ノイズフィルタ

スイッチング電源は、他のシステムと電子装置を繋ぐ役割を果たします。このため、他のシステムから伝わったノイズが電子装置まで伝わってしまう可能性があります。ノイズフィルタは、そうしたノイズを除去する役割を持っています。具体的なノイズ対策については、後ほど紹介します。

整流平滑部

整流平滑部では、名前の通り、整流と平滑を行います。

整流とは

整流とは、交流を直流に変換すること。整流ダイオードにて行われる。ダイオードが持つ順方向の電流は遠し、逆方向の電流は通さない性質を用いている。

平滑とは

平滑とは、整流した直流に残っている電圧変動(=リップル)をなだらかにすること。電解コンデンサにて行われる。

スイッチングトランスを挟んで、入力側(AC側)を一次側、出力側(DC側)を二次側と呼びます。

スイッチング素子

スイッチング素子は、電気のオン・オフを繰り返します。スイッチング素子のオン・オフにより、高周波のパルスに変換します。

スイッチングトランス

スイッチングトランスは、エネルギーを一次側から二次側へ伝達します。数KHz~数MHzの高い周波数帯で動作する必要があるため、高周波トランスとも呼ばれています。

フィードバック部

フィードバック部では、制御回路によって制御を行います。これにより、出力電圧が一定になります。

スイッチング電源(SMPS)の基本構成
  1. 入力        :スイッチング電源に電気を供給
  2. ノイズフィルタ   :ノイズを除去
  3. 一次側整流平滑部  :整流と平滑
  4. スイッチング素子  :高周波のパルスに変換
  5. スイッチングトランス:エネルギーを一次側から二次側へ伝達
  6. 二次側整流平滑部  :整流と平滑
  7. フィードバック部  :制御回路による制御

スイッチング電源(SMPS)のノイズ対策

スイッチング電源(SMPS)のノイズ対策の手順

すでに述べた通り、スイッチング電源を用いた際、他のシステムから伝わったノイズが電子装置まで伝わってしまう可能性があります。このため、スイッチング電源のノイズ対策は、欠かせません

ノイズ対策は、下記の手順で行います。

  1. ノイズの種類を見極める
  2. ノイズの種類に適したフィルタを選択する

順番に手順を紹介します。

スイッチング電源(SMPS)のノイズの種類

スイッチング電源(SMPS)のノイズには、「ディファレンシャル(ノーマル)モード」と「コモンモード」が存在します。

出典:【伝導ノイズ】ノーマルモードノイズとコモンモードノイズの違い

ディファレンシャル(ノーマル)モードノイズ

ディファレンシャル(ノーマル)モードノイズの特徴は、下記の通りです。

  • ノイズ源が電源ラインに対して直列に加わる
  • ノイズが電源ライン間に発生する
  • ノイズの進行方向が行きと帰りで逆方向(ディファレンシャル)

コモンモードノイズ

コモンモードノイズの特徴は、下記の通りです。

  • 信号ラインと接地間にノイズ源がある
  • ノイズは2本の信号ラインに伝達される

ノイズの流れ方によって、取るべきノイズ対策が異なります。このため、まずは流れているノイズのノイズモードがどちらなのか見極める必要があります

スイッチング電源(SMPS)のノイズ対策

ディファレンシャル(ノーマル)モードのノイズ対策

ディファレンシャルモードノイズは、ローパスフィルタ(LPF)で低減できます。

ローパスフィルタ(LPF)とは

ローパスフィルタとは、フィルタの一つ。ローパスフィルタは、設定した周波数より低い信号だけを通し、高周波の信号をカットする。Low-Pass Filterの頭文字を取り、LPFと略すこともある。

ノーマルモードノイズの電流は、回路の動作に使う電流と方向が同じです。このため、フィルタを設置すると、動作に必要な電流も除去されてしまう可能性があります。正常に回路が動作できるよう、周波数の設定を調整する必要があるのです。

コモンモードのノイズ対策

コモンモードノイズは、コモンモードチョークコイルで低減できます。

コモンモードチョークコイルとは

コモンモードチョークコイルとは、コモンモードにだけ働くフィルタ。コモンモードのノイズと信号を区別し、信号だけを伝達する。

ポイント
  • スイッチング電源(SMPS)のノイズには、「ディファレンシャル(ノーマル)モード」と「コモンモード」がある
  • ノイズの流れ方により取るべきノイズ対策が異なる

スイッチング電源(SMPS)の主なメーカー

スイッチング電源(SMPS)の主なメーカーは、下記の通りです。

  • TDKラムダ
  • コーセル
  • オムロン
  • サンケン電気
  • IDEC
  • アジア電子工業
  • ニプロン
  • キーエンス
  • サンエー電機

内蔵スイッチング電源を持つSTM32H7

CPUの中には、スイッチング電源を内蔵するものもあります。スイッチング電源を内蔵することにより、部品数を削減できます。
内蔵スイッチング電源を持つCPUの例として、STM32H7のデュアルコア・ラインが挙げられます。

STM32H7については、下記の記事をご覧ください。

STM32H7シリーズとは?仕様・機能・評価ボード・開発環境・対応OSを紹介